覚醒と睡眠をスイッチする仕組み
前回 覚醒を誘導する中枢・投射系 について説明しましたが <睡眠を促進するGABA作動性ニューロン> 睡眠を促進する側には 睡眠中枢があります それは 視床下部前部・視索前野(VLPO)に存在する GABA作動性ニューロンで 前回ご紹介した モノアミン系 アセチルコリン系の覚醒誘導システムを 強力に抑制します また ノンレム睡眠の開始に 先行して活動を開始し ノンレムの期間中 覚醒系神経核を抑制して睡眠を安定化させます この睡眠中枢は 覚醒系神経核により抑制されます つまり 覚醒系と睡眠系の間には 相互抑制関係が存在していて 睡眠と覚醒の交代現象が 安定かつ効率的に行われているのです ホント ヒトの体って 上手くできていますよね!(笑) では 覚醒と睡眠の交代 切り替えが どのように行われているのか? その前に もう一度整理しておきますが *覚醒状態では 全ての覚醒性投射系が機能し 大脳皮質を賦活化している *ノンレム睡眠では 全ての覚醒性投射系が低下して 皮質は賦活化されない *レム睡眠では モノアミン系投射系の活動は ノンレム睡眠のときよりさらに低下していますが アセチルコリン系はしっかりと活動していて 皮質が賦活化されています で 繰り返しになりますが 覚醒と睡眠は互いに抑制しあっています *睡眠のGABA系は 覚醒のモノアミン・アセチルコリン系を抑制する *覚醒のモノアミン・アセチルコリン系は 睡眠のGABA系を抑制する つまり 睡眠と覚醒がシーソーのような状態になっていて どちらかが優勢になると スイッチが切り替ります <睡眠と覚醒のスイッチを切り替える機序> このスイッチの切り替えを規定しているのが 前にご説明した 体内時計と睡眠負債です さて このシーソーは 通常は睡眠に傾く傾向がありますが 覚醒が必要なときには オレキシンが働いて 覚醒を維持・安定化させます つまり 覚醒が必要な状況になると オレキシンが分泌されるわけで 具体的には *体内時計の影響により 朝になると分泌が増す *ストレスがかかると 覚醒して対処するために分泌が増す ・視床下部から分泌される ストレスホルモンCRHが分泌を高める *空腹時には 覚醒して食べないといけないから分泌が増す ・血中グルコース濃度が低下すると 分泌する ・食欲を抑制するレプチンは 分泌を抑制する ・食欲を活性化するグレリンは 分泌を促進する *危険に対する不安や恐怖などの情動があると 分泌が増す このように 脳が覚醒していないと困る状況では オレキシンが分泌されて覚醒が維持されるわけです 再度 ヒトの体は 上手くできています! ところで この睡眠と覚醒のスイッチ切り替えは ホンモノのスイッチのように パチンと即座に切り替わるわけではなく ゆっくりと時間をかけて行われます 例えば 明け方に睡眠から覚醒に切り替わる際は コルチゾールという 睡眠中は分泌が抑制されているホルモンが分泌され始め *エネルギー代謝の亢進 *体温 血糖値の増加 *血圧 脈拍数 呼吸数の増加 を引き起こして 体を覚醒モードにして 時間をかけて睡眠から覚醒への移行を促します このように 睡眠と覚醒はシーソーのような状態にあり *睡眠システム *覚醒システム *オレキシンシステム が 三位一体となって 外界の状況に応じて そのバランスを巧みに調節しているわけです 何度も繰り返しになって ホントに恐縮ですが ホント ヒトの体は 上手くできています!
高橋医院