神経伝達物質
脳の中にある睡眠中枢 覚醒中枢 について説明してきましたが その際 モノアミン系とか GABA系といった 単語が出てきました このモノアミンやGABAは 神経細胞が他の神経細胞に 情報を伝達する際に分泌される物質で 神経伝達物質 と呼ばれます 今後もさまざまな病気や症状の話題で 神経伝達物質が登場するでしょうから これを機会に解説しておきましょう <神経伝達物質の働き方> 神経細胞は 活性化されて興奮すると 他の神経細胞に情報を伝えます その際に 直接 他の神経細胞に結合するのではなく 互いに近寄り お互いの間に シナプスと呼ばれるわずかな空間 を形成します 活性化した神経細胞は 神経伝達物質を合成して それを 細胞の末端からシナプス空間に向けて 放出します 放出された神経伝達物質は 拡散によってシナプス空間を広がり 情報が伝えられる神経細胞の末端に存在する 神経伝達物質の受容体に結合して 情報伝達するわけです 放出された神経伝達物質は 過度な情報伝達が行われないように 速やかに酵素によって不活性化されるか または 放出した神経細胞に再吸収されます <神経伝達物質の分類> 神経伝達物質は その化学構造から 3つのグループに分かれます @アミノ酸系 @モノアミン系 @ペプチド系 <アミノ酸系> アスパラギン酸 グルタミン酸 グリシン タウリン などがあり 睡眠中枢で出てきたGABAも この仲間に属します @GABA 既に説明したように 睡眠中枢で抑制性の神経伝達を担い 睡眠の維持に貢献しています @グリシン 抑制性神経伝達物質として機能し 睡眠の維持に関わっています @グルタミン酸 興奮性神経伝達物質で 記憶・学習などに重要な 高頻度に情報伝達が行われる現象 (シナプス可塑性・長期増強)や 脳の発達期の経験依存的な 神経回路網の形成(シナプス可塑性) の場面で重要な役割を果たしています @アスパラギン酸 興奮性神経伝達物質として働きます <モノアミン系> 1つのアミノ基と 2つの炭素鎖 からなる構造で ドパミン ノルアドレナリン アドレナリン セロトニン ヒスタミン などが このグループに属します 脳幹部 後脳 中脳に存在する 神経細胞で作られることが多く その神経細胞は 脳全体に存在する多くの神経細胞と シナプスを形成するため 広範囲の脳に作用する 広汎投射神経系 として機能しています @ドパミン チロシンから作られ *運動調節 *学習・記憶 注意 実行機能などの認知機能 特に作業記憶 *報酬系・快の感情 などの神経情報伝達に関与します パーキンソン病は 黒質線条体のドパミンの減少により 運動調節が上手くいかなくなる病気です @ノルアドレナリン チロシン ドパミンから作られ 橋の青斑核から脳全体に投射し 覚醒 記憶の固定 などに関与します @セロトニン トリプトファンから合成され 橋や脳幹にある縫線核群から 大脳・小脳・脊髄全体に投射し 体温調節 摂食行動 睡眠 情動 学習・記憶 などに関与します また セロトニンは 脳内のさまざまな神経伝達物質の 調整役として機能して 快に関わるドパミン 不快に関わるノルアドレナリン のバランス 興奮に関わる ドパミン ノルアドレナリンと 抑制に関わるGABA のバランスを 調節しています @ヒスタミン ヒスチジンから合成され 覚醒の維持を助ける働きがあります <ペプチド系> アミノ酸が連結して出来た 生理活性を有するペプチドで 神経ペプチドと呼ばれます 内分泌機能に関わる 視床下部・下垂体のオキシトシン バゾプレシン 摂食調節に関わる オレキシン AgRP NPY POMC CART グレリン MCH 学習・記憶に関わる ソマトスタチン CRH αMSH 痛覚に関わる サブスタンスP ニューロキニンA βエンドルフィン など 多種多様な神経ペプチドが属しています 脳の中では こうしたさまざまな神経伝達物質が 状況に応じて分泌され それにより 神経細胞間で情報が伝達され 機能が増強されたり抑制されたり しているわけです また 神経疾患や精神疾患の治療薬の多くが これらの神経伝達物質の受容体の 活性化作用や抑制作用を介して その作用を発揮しています
高橋医院