大脳辺縁系
以前に紹介した 食欲が起こる機序の話でも 今回の睡眠・覚醒に関する話題でも しばしば登場してくるのが 大脳辺縁系です 今日は 大脳辺縁系 について説明します <大脳辺縁系とは?> @辺縁系がある場所 大脳辺縁系は 大脳新皮質により 表面を覆う包まれた脳の奥深くに その下に 視床・視床下部を囲むようにして 脳幹部の上に存在します 生物の進化過程で もっとも古くからある脳で 魚類以降の全ての動物で 共通な機能に関係しています 動物が進化するほど 大脳皮質が大きくなるのに対し 辺縁系は 進化の過程でほとんど発達していません @本能を司る部位 つまり 辺縁系は生物にとって プリミティブな機能を果しているわけで それこそが 本能! なのですよ(笑) 辺縁系を覆っている 灰白色の大脳新皮質は 哺乳類で進化した特有の脳で 特にヒトでは発達が著明で 思考をはじめとする働きにより 人間を人間たらしめています それに比べて 皮質の下に存在する辺縁系は 思考や理性の制御が及ばない本 能の世界を牛耳っているわけで 天邪鬼な書き手は 論理的な思考を良しとしながらも ついつい 辺縁系が織り成す世界に 興味津々になります(笑) <具体的に行っていること> 辺縁系は 動物としての 原初的な行動の源となっている部位で @生命維持 本能行動 情動行動 @本能的な 情動の表出 意欲 食欲 性欲 睡眠 記憶 などに 関与しています @好き嫌いを決める 対象物の好き嫌いの評価を 記憶をもとに行う部位でもあり 好きか嫌いかを 過去の記憶から判断し 好きと判断した場合は意欲を起こし 嫌いと判断した場合は それを避けるための信号を発します その信号は *自律神経反応 内分泌反応に関与する 視床下部 *行動・運動に関与する 大脳基底核 などに出力され 視床下部や基底核の働きを介して 辺縁系の機能が表われさます <情動と記憶> 特に重要なのが @情動 (やる気 怒り 喜び 悲しみ等の快・不快) の発現 と @記憶(短期記憶と長期記憶) の形成・保持 です @海馬と扁桃体 辺縁系の主要構成部位の 海馬と扁桃体には 全ての皮質感覚連合野 (視覚・聴覚・体性感覚・味覚・嗅覚) からの情報が収束し それらの情報に基づき *扁桃体で情動発現 *海馬で記憶形成・保持 を行っています @海馬では 日常生活において入ってくる 目 耳 鼻などの感覚情報が全て集められ それらが記憶として整理されます 現在から2年前くらいまでの記憶が 短期記憶として形成され 海馬に蓄えられ 蓄えられた短期記憶の中でも 重要だと判断されたものは やがて大脳皮質に移行され 長期記憶として永久保存されます @扁桃体では 大脳皮質全域の感覚系から 味覚 嗅覚 内臓感覚 聴覚 視覚 体性感覚 などの情報を受け 視床 海馬からも情報入力を受け それらを記憶と照らし合わせて 快・不快 好き・嫌い を判別します こうして得られた判断は 脳の他の部位へ情報発信されます *視床下部に対して 交感神経系を活性化する信号を発し 自律神経 内分泌反応が起こります *視床網様体核に対して 反射亢進信号を発し 情動発現による覚醒促進が生じます *腹側被蓋野 青斑核 外背側被蓋核に対して ドパミン ノルアドレナリン アドレナリンの 放出の信号が出され 覚醒維持に関与します *三叉神経と顔面神経に対して 恐怖の表情表現の信号が出され それにより 喜怒哀楽の表情が作られ 恐怖感 不安 悲しみ 喜び などの 情動発現がなされます 扁桃体と海馬の関連は深く 扁桃体は 海馬からの視覚 味覚などの記憶情報をまとめ それが快か不快か(好き嫌い)を 判断しますが そうした扁桃体で作られた 快・不快感情や情動は 海馬に送られ 海馬での記憶形成に大きく影響します このように 情動と記憶形成は 海馬と扁桃体の密接な関係により 互いに深く影響しあっています @側坐核との関連 食欲の快楽の説明で登場した 快楽の情動を司る側坐核も 辺縁系とのつながりが強く 大脳皮質から 「何かを始めよう」という指令を受けると 側坐核が 扁桃体や海馬と相談し それが好きなことかどうかを判断し やる気を出すかどうかを決めています 特に 扁桃体基底外側核 腹側被蓋野からの ドパミン性入力は 側坐核での報酬系や快楽に関わる神経活動に 強い影響を及ぼします このように 大脳辺縁系は 大脳皮質が司る理性では なかなか制御・理解しきれない まさに生き物としてのヒトの本能に 深く関与していて 書き手が興味を持つ理由が 解っていただけたでしょうか?(笑)
高橋医院