初期のゲノム編集
ゲノム編集の解説を始めたところ タイミングよくというか ビックリするようなニュースが 飛び込んできました 中国の研究者が これから詳しく紹介する新たなゲノム編集の技術を 受精卵に施し 母胎に戻して双子の女の子を出産させたというのです 斯界は喧々諤々の様相を呈していますが この件についてはあとで詳しく説明することにして もう少し基礎的な解説を続けます さて 遺伝子導入は 着実な成果を得られましたが いかんせん効率が悪いし 成果を得るのに長い年月を要する もっと速く もっと効率的に! がモットーの現代社会は 新たな遺伝子改変技術を求めます そして さまざまな試みが成されてきました <遺伝子ノックアウトマウス・KOマウス> マウスの受精卵が発育した胚性幹細胞の 特定の遺伝子を壊し そうした遺伝子を持ったマウスを誕生させます 特定の遺伝子を壊したマウスに どのような変化や現象が起きるか観察できるので 壊された遺伝子が発揮する機能が ダイレクトにわかります 但し この技術はES細胞(胚性幹細胞)がないと できなません ES細胞は 受精卵から発生が始まったごく初期の 一時期にしか獲れない細胞で 得るには習熟した技術が必要とされます このように ノックアウトマウスの作製には 熟練の技術と何か月にもわたる時間が 必要とされ またマウス・ラットでしか出来ず ヒトに応用することは出来ません <ゲノム編集の幕開け> KOマウスの欠点を克服するために 「ゲノム編集」の研究が始まりました 改変したい遺伝子のDNAを 何らかの方法で直接切断して その遺伝子の機能を失わせたり そこに別のDNA配列を挿入して 新たな機能を発現させよう とする試みです 第1世代のZFNは1996年に開発され 第2世代のターレン(TALEN)は 2010年に開発されました どちらも 特定の塩基に結合するタンパク質 がガイド役を果たします @ZFN まず ガイド役となる 編集したいDNAに結合する タンパク質(ジンクフィンガー:ZFN)を 設計して作成します ジンクフィンガーは ミネラルの亜鉛について 説明したときに紹介しましたね ZFNは 結合手を用いて 3つの塩基をセットで認識します このZFNに 遺伝子を切ることが出来る 制限酵素(FoKIヌクレアーゼ)を連結させ ZENが認識した遺伝子部位を切断します @TALEN(Transcription Activator-Like Effector Nucleases) ガイド役は タンパク質の TALエフェクター TALリピート ハサミ役は FokⅠヌクレアーゼ です ガイド役のTALエフェクターは *酵素(TALEN) *転写因子(TALE-TF) *その他の機能性ドメイン との標的配列特異的な融合により 目的とする標的配列に結合します これらの融合タンパク質は 染色体の標的配列を特異的に認識・結合し *ノックアウト(遺伝子を欠損させる) *ノックイン(遺伝子を外から組込む) といった 遺伝子編集を実現させます 3つの塩基を認識する ジンクフィンガー(ZFNs)と異なり TALエフェクタードメインは 1塩基を認識するため どのような配列でも標的とすることが可能であり 標的としていないDNA配列を 誤って切断するリスクも少なくてすみます このように 2010年代の始めまでは ZFNやTALENを用いたゲノム編集が 行われていました これらは 従来の遺伝子導入とは異なる 特定の遺伝子に特異的な技術ですが 作製に時間や費用がかかるのが難点でした そして いよいよ次の主役 CRISPR/Cas が登場してきます
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