男ができる仕組み
Y染色体がないと男になれない という話をしましたが 雌雄同体状態から男に分化するとき 具体的にどのようなことが 起こっているのでしょう? <妊娠7週目までは雌雄同体> 胎児は 妊娠7週目までは体内に *女性生殖器の原器であるミュラー管と *男性生殖器の原器であるウオルフ管 の両方を有しています まさに 未分化の生殖器原器を有した 雌雄同体の状態です <8週目にSRY遺伝子が働いて男性生殖器ができる> Y染色体があると 妊娠8週目に 生殖器が男性になるように 舵が切られます Y染色体の端っこに存在する SRYという遺伝子が働き始めるのです SRY遺伝子は SRYタンパク質を作りますが このSRYタンパク質は転写因子で 男性化を引き起こすさまざまな遺伝子に 結合して活性化し その結果 多くの男性化誘導タンパク質が 作られるようになり それらの協調作用により精巣が作られ 精巣から男性ホルモン(テストステロン)が 分泌されるようになる 男性ホルモンは 男性生殖器の原器のウオルフ管に作用して 男性生殖器が作られ始めますが 一方で精巣は 女性生殖器の原器のミュラー管を退化させる 抗ミュラー管ホルモンも分泌するので 女性生殖器は 体内から消えてなくなります こうして 雌雄同体状態から 男への分化の道筋ができるのです <Y染色体がないと女性生殖器ができてくる> もし Y染色体がなければ 12週頃に 未分化性腺は自動的に卵巣になり ミュラー管から卵管や子宮ができてきます 何度もしつこくて申し訳ありませんが 女は存在 男は現象 なのです <性分化を規定する因子> 男性へ性分化のイニシエーションは このようにY染色体上に存在する SRY遺伝子によってなされますが Y染色体・SRY遺伝子以外にも 性分化決定に関わる因子があります 常染色体に存在する *11番染色体のM33 *13番染色体のFGF9 *1番染色体のWNT4 などで 性決定にはいくつかのステップがあり 各ステップにおいて さまざまな遺伝子が働き 複数の遺伝子が相互に協力して 性分化が起こると考えられています また 精巣から分泌される男性ホルモンが 胎児期に大量に分泌されることも 性分化には重要です 大量分泌された男性ホルモンは 生殖器以外の臓器や細胞にも働きかけて 男らしさを形成していきます 有名なのは 脳の形成への男性ホルモンの影響で 男性ホルモンの作用がある場合(男)と ない場合(女)では 脳の状態が微妙に異なってくると 言われていますが このあたりは不確実なデータも多いので 今回はご紹介しません <性分化の異常とそれにより生ずる病気> さて最後に 性染色体の数の異常により起こる 性分化の異常についてご紹介します 精子と卵子から受精卵が作られるときの ちょっとした手違いで 性染色体の数が 増えて3個になったり 減って1個になることがあります @クラインフェルター症候群 増える場合で 性染色体は1個多い XXY(染色体総数は47本)で Y染色体を持っているので 身体的な特徴は男性になります しかし 精子の数が少ないため不妊になりやすく 乳房が女性のように発達することもあります @ターナー症候群 減る場合で 性染色体はXを1本しか持っておらず(染色体総数は45本) 身体的な特徴は女性を示します しかし卵巣が発育不全になるので 第二次性徴は起こらず 生理も起こりません @アンドロゲン不応症 Y染色体を有していても 女性外性器を有する場合で Y染色体は正常で 男性ホルモンのアンドロゲンも 通常に分泌されますが アンドロゲン受容体に異常があるので アンドロゲンが機能せず そのために男性外性器が形成されず 女性外性器になってしまいます しかし Y染色体の働きで 男への性分化のイニシエーションは 普通に起こっているので 卵巣や子宮は作られません また 男性ホルモンの一部が 女性ホルモンに変換されるので 思春期には女性の体形になります なんとも不可思議な状況ですが ちなみに 異常を起こすアンドロゲン受容体の遺伝子は X染色体上に存在しています 性の分化 性染色体の世界は 奥が深いです で 最近 社会的認知度がとても高まっている 性同一症候群ですが 上記の性染色体異常などの方が 性同一症候群になりやすいという傾向は 全くないようです こちらも 奥が深いです
高橋医院