京都の老舗料理店の三代目 
高橋拓児さんが語られる
和食のだしの香りの話題を続けます

ここで香りと記憶」の関連に
話が進みます

プルーストのマドレーヌの話でも
紹介したように
香りと記憶は 
とても密接な関係にあります

香りと記憶はとても密接な関係にあることを示す図

香りが記憶を呼び起こす

だしの香りが
幼い頃の懐かしい記憶が蘇らせるのは
香りが記憶をつかさどる海馬を
刺激するから

香りが海馬を刺激する様子
海馬について説明する図

また 匂いの刺激は
扁桃体に伝わって情動を刺激して
快不快の感情を引き起こします


海馬と扁桃体について説明する図

つまり
脳の中の最も人間らしい
エモーショナルな部分に
直接働きかけている

視覚や聴覚からの情報は
大脳皮質を経て 
海馬や扁桃体に伝わりますが

嗅覚からの情報は 
直接 海馬や扁桃体に伝わる

これがいちばん大きな違いで
それだけ嗅覚が記憶や情動に働きかける力が
強いということです


嗅覚からの情報は 直接 海馬や扁桃体に伝わることを示す図

そして 
香りは海馬を経て
大脳皮質で記憶として蓄積され
またその香りを嗅いだ時に
記憶が蘇るのです

つまり 
香りを楽しむことは
脳の奥にしまい込まれた記憶を
たどる旅でもある

香りをかいで昔のことを思い出している人の姿
なるほど~

高橋さんと聞き手の佐々さんは 
さらに敷衍します

だしの香りを楽しむことは
だしそのものの記憶をたどる旅でもある

だしの素である昆布や鰹が育ち
収穫されたそれらを原料に
長い年月を経てだしが完成するまでの
時間の経過によって蓄えられた
森羅万象の記憶が
香りによってひもとかれる

さらに 
人を惹きつけるその香りは
人類に進化する前の祖先が海の中に暮らしていた頃に
由来するのかもしれない

香りを嗅ぐという行為は
進化の過程で先祖が身につけてきた
「美味しい」という記憶の扉を
開ける作業でもある

昆布と鰹節の写真

そういわれてみると
確かにだしの素は
昆布や鰹といった
海の栄養素の塊ですね

それにしても
だしの香りについて
そこまで深く掘り下げますか
凄いですねぇ、、、


視覚優位の現代社会における 
香りの立ち位置 

についても話は及びます

現在は 
さまざまな技術進歩で便利になったけれど
圧倒的な視覚優位の生活の中で
なぜか生きている喜びから
遠い場所にいるのに気づくことがある

圧倒的な視覚優位の生活を示す図

それはひょっとすると
香りによって立ちあげる世界と
切り離されているからかもしれない

香りを嗅ぐという行為は
しばしば受け身であり 
意識されることがないけれど

しかし 
ひとたび香りに意識を向ければ
そこから立ち上がる世界は
われわれが思うよりずっと深い

花のにおいをかぐ猫の姿

うーん 深いけれど
なんだか香り礼賛になってきました(笑)


最後に にほひ について言及されて
興味深いインタビューは終わります

高橋さんは 能も嗜まれるそうですが

能には
日本人の香りに対する感性が
色濃く表れている 

と指摘されます

能の達人は
扇一枚でその場の空気そのものを動かし
舞台から去っても 
その人の存在が色濃く残る

それを人は「にほひ」と呼ぶ

能独特の
この世ならぬものの気配すら表す
「にほひ」は
日本人が大切にしてきたものだとか

能舞台の様子

それは 
料理を作るときの心構えでもあるそうで

料理の背後に
目に見えない 音に聞こえないが
確かに存在し気配がする

そんな料理人でありたい

と語られます


うひゃ~ 格好良いですね!

にほひ かあ


古語辞典を紐解くと

美しい色合い 色つや 
つややかな美しさ
魅力 気品
香り
気分 余情

といった 
懐の深い言葉が並んでいます

板前さんが出汁を引いている姿

和食のだしの香りから
「にほひ」という情緒豊かな古語に
たどり着くなんて!

いつか京都の高橋さんのお店で
お椀をいただきたくなりました!

 

高橋医院