睡眠の基礎的なメカニズムについて 
充分に説明してきたので
そろそろ臨床的な話題に転じましょう

読み手の皆さんにとっては 
あまり面白くなかったかもしれない

どうして眠くなるのか? 
どうして起きるのか?
そのバランスが 
 どのようにしてとられているのか?

といったことを 事細かに説明してきたのは

そこがわかっていると
多くの患者さんが悩まれている 不眠症 についても
より深く理解していただけると思ったからです

不眠症に悩む人の姿

病気の理解の基礎となるのは
なぜ そうした症状が出てくるかを
ロジカルに説明する病態生理です

煩わしいことに 
書き手は医学生の頃から 
病態生理フェチなのですよ(苦笑)

病態生理の教科書

病態生理のお勉強をするのは大好きで

「内科医は 
 病態生理に精通してこそナンボ!」 
と信じています

でも 
フェチの言い訳をさせていただくと(再苦笑)

患者さんに 
きちんとご自分の病気について
ご理解いただくには

説明する側の医者が 
その病気の病態生理を
しっかり把握していて

その知識をもとに
なぜ その病気が起こるか? 
症状が出てくるか?
どのような治療をすれば改善するか?

といったことを 
患者さんに わかりやすく説明できることが
とても大切なこと

だと思っています

患者さんに
わかりやすく説明できるように
日々 お勉強を重ねて 
精進しているつもりですが

その成果は出ているでしょうか? 
そこが問題だ!


まあ 
そんな自問自答はどうでもいいので?(苦笑) 
閑話休題


まず 日本人の睡眠の現状 
について解説します

<日本人は眠らなくなっている>

日本人は最近 
眠らなくなっていると指摘されています

先進国のなかでは 
睡眠時間が韓国に次いで短い

日本は先進国のなかでは睡眠時間が短いことを示すグラフ

5人に1人が睡眠の問題を抱えていて

5人に1人が睡眠の問題を抱えていることを示すカード

そうした方は 
50代後半から増えてきます

性別 年代別の不眠症患者数を示すグラフ

睡眠時間が減少した理由としては

夜型の生活パターンの人が増えていて 
入眠時間が遅れている

1941年の平均的な就寝時間は
午後11時頃だったのに

2000年の就寝時間は 
なんと午前1時というデータがあります


入眠時間が遅れていることを示す図

睡眠時間が減り 夜型が増えていることを示す図

仕事があるから
起床時間は遅らせられないので
結果的に睡眠時間が減るのです

また 次回以降詳しく説明していきますが

今の日本では 
寝つきが悪い 
途中や朝早く起きてしまうといった
不眠に関する悩みを持たれている方が 
とても多い


<睡眠と健康の関連>

@睡眠障害で生活習慣病になりやすい理由

睡眠障害は 
体のリズムを狂わせます

睡眠 覚醒のリズムは 
体の1日のリズムに大きな影響を及ぼし

昼間の覚醒中は 
交感神経がはたらいて活動的になり

夜間の睡眠中は 
副交感神経が優位になって心身を休ませます

交感神経 副交感神経の活動の日内変動を示す図

しかし

夜型の生活が続くと
交感神経が優位なままで
体の活動モードが続き
本来の体のリズムが乱れ 
自律神経活動やホルモン分泌に異常をきたし

高血圧 肥満 糖尿病などの生活習慣病を
引き起こす恐れがあるのです


不眠と生活習慣病の関連を示す図

これまでの多くの検討結果を見ると
睡眠時間が6~8時間だと 
なにかにつけてベストで

5時間以下 または 9時間以上だと 
いろいろと弊害が出てきます

平均寿命は 
6~7時間睡眠の人がいちばん良くて
それより短くても長くても 
良くない

平均寿命は6~7時間睡眠の人がいちばん良いことを示す図

@高血圧

高血圧と睡眠の関係は
発症リスクが最も少ない
睡眠時間7~8時間に比べ

5時間以下だと1.5倍に増加し
9時間を超えるとリスクが上がる

不眠症の人の生活習慣病発症リスクをまとめた図

また 
入眠障害 中途覚醒がある人の方が
発症率が高い

入眠障害 中途覚醒がある人の方が高血圧発症率が高いことを示すグラフ

これは 睡眠障害による
交感神経の活性化が関与すると
考えられています

交感神経の活性化など 睡眠障害による高血圧発症の原因をまとめた図


@糖尿病

糖尿病に関しては
睡眠時間が5時間以下の人は 
発症率が2.5倍上がる

睡眠障害により糖尿病発症リスクが増えることを示す図

睡眠時間が短いと
食欲促進ホルモンのグレリンが増え
抑制ホルモンのレプチンが低下するため
肥満にもなりやすい

また 入眠障害 睡眠維持困難の人は
糖尿病の発症率が 
2~3倍高くなります

不眠があると 
インスリン感受性が低下するので
糖尿病の患者さんが不眠になると 
コントロールが悪くなってしまいます

不眠ではインスリン感受性が低下がみられることを示す図

@うつ病

どの年齢でも 
うつ得点が高い人は睡眠時間が短く
睡眠時間が5時間以下で急激に高くなり
9時間以上でもうつ得点が高くなります

また 
睡眠の質が悪い 
睡眠で休息がとれない人も 
うつ得点が高い

学生時代に不眠の人は
中年になってからのうつ病発症率が
2倍になるというデータもあります

不眠に悩まれる方が
多い交代勤務の人も 
うつ病になりやすく

6年以上続けていると 
6~7倍 うつ病になりやすい

不眠がうつ病を誘導するかどうかは
定かではありませんが
うつ病と不眠は
同じ気質(神経質 几帳面すぎる)から
発症する可能性があります

睡眠障害とうつ病の関連を示す図

また うつ病の初期には 
不眠しか症状を呈さない可能性もありますから
典型的なうつ症状を示さない
不眠症患者に隠れるうつ病を
見逃さないことが大切です


<乳がんと睡眠との関連

以前にもご紹介しましたが

睡眠時間が6時間以下では1.62倍 
9時間以上は0.72倍とリスクが増え

週3回の夜勤は1.8倍 
夜勤専門は2.9倍リスクが増えます

睡眠時間と乳がん発症リスクの関連を示すグラフ

これには 
メラトニンの分泌低下が関与すると
推測されていて

実際に夜勤者のメラトニン分泌量は 
日勤者の20%にとどまっています


このように
さまざまな病気の発症やコントロールに関して
ベストなのは  6~7時間は寝ることで

睡眠時間が5時間以下の方
不眠症状がある方は 
要注意ということになります


高橋医院