自然アレルギーと自然リンパ球
アレルギーといえばIgEでしたが
ここ数年 アレルギーの概念が変わってきて
IgE抗体が関与しない自然アレルギー反応が
注目されています
また これに関して注目されているのが
自然リンパ球です
今日は
アレルギー反応への自然免疫の関与と
日本人が発見した自然リンパ球・ILC2の
関わりについて解説します
<アレルギーへの自然免疫の関与>
免疫反応は
自然免疫と獲得免疫の
ふたつのタイプの反応により
成り立っています
@自然免疫
侵入してきた外来病原体を
発見して退治する初期攻撃の免疫反応で
マクロファージ NK細胞 好中球などにより担われ
その反応には
抗原特異性がありません
この自然免疫反応で得られた
病原体に関する情報が
樹状細胞やマクロファージなどの
抗原提示細胞により
獲得免疫系に引き渡されます
@獲得免疫
T細胞 B細胞によって担われる反応で
抗原提示細胞により
T細胞 B細胞が教育されて
病原体に特異的な免疫反応が生じます
また免疫記憶を有していて
2回目以降に侵入してきた病原体を
素早く攻撃します
@自然免疫はアレルギー反応に関与する?
さて
自然免疫のアレルギーへの関与が
注目されるに至った背景として
抗原特異的IgEが検出されない
非アトピー型喘息が
中高年に多く発症している
(中高年の喘息の半数以上では
IgEが関与していません)
皮膚炎の局所で
本当に抗原の暴露が起こっているか
不明である
ウイルス誘発性喘息では
抗原暴露は関与しないであろう
といった日常診療での疑問点がありました
一方で
網羅的遺伝子解析研究(GWAS)により
アレルギーに特異的な遺伝子多型に
IL-33 TSLPといった
自然免疫に関わる分子が含まれることが判明し
アレルギーと自然免疫応答の関連性が
示唆されたのです
<自然型アレルギー>
こうして
従来のアレルギーとは異なる
IgE抗体が関与せず
感染などが契機になる
新しいタイプのアレルギー反応の存在が
提唱され
自然型アレルギー
と呼ばれるようになりました
このタイプのアレルギーの発症の契機は
*ウイルス 細菌などによる
上皮細胞(鼻粘膜 気管支上皮細胞など)
の活性化
*掻爬による上皮の機械的傷害
と考えられています
@上皮細胞が産生するサイトカイン
活性化された上皮細胞から
IL-25 IL-33 TSLP
が産生 放出されます
このように
ウイルスや細菌と直接接触する上皮細胞が
サイトカインを放出して
免疫反応を誘導することが
自然型アレルギーの大きな特徴と言えます
*IL-25(IL-17E)
Th2細胞が産生する
IL-17類似のサイトカインとして同定されましたが
上皮細胞などのリンパ球以外の細胞からも
産生されることが示されました
後述するILC2細胞を刺激して
強力にTh2反応を誘導します
喘息では
IL-25産生細胞が増加すると重症化しやすいことが
報告されます
*IL-33
IL-5産生を誘導してアレルギーの病態に関与し
ILC2誘導作用が特に強いのが特徴で
前回説明したPathogenic Th2の誘導にも
関与します
*TSLP
樹状細胞を活性化して
Th2分化誘導を促進し
肥満細胞や好塩基球も刺激して
Th2反応を誘導します
また後述するILC2細胞も刺激します
喘息では IL-25と同様に
TSLP産生細胞が増加すると
重症化しやすいことが報告されています
このように
上皮細胞が産生するサイトカインにより
*肥満細胞 好酸球 好塩基球の活性化
*自然リンパ球ILC2の活性化
*抗原提示細胞活性化によるTh2分化誘導
*IL-4 IL-13 IL-5の過剰産生誘導
といった
アレルギー反応を惹起 促進する反応が誘導されます
<自然リンパ球 ILC2>
近年 注目されているのが
自然リンパ球(ILC)という
新しいタイプのリンパ球です
自然リンパ球は
ILC1 ILC2 ILC3
の3つのサブタイプがありますが
アレルギーとの関連が注目されているのは
ILC2 です
ILC2は日本人の茂呂先生達が
腸管膜脂肪組織内での存在を発見した
Th2サイトカインを大量に産生するリンパ球です
ILC2の本来の機能は
寄生虫感染の防御ですが
上皮細胞が産生する
IL-25 IL-33で活性化され
Th2サイトカインのIL-5 IL-13を
大量に産生するので
自然型アレルギーの病態形成に関わると
推察されています
実際に喘息の患者さんの
血液中 肺胞洗浄液では
ILC2細胞の増加が報告されています
ILC2の興味深い点として
*ILC2の抑制機構
*ILC2のステロイド抵抗性
があります
抑制機構に関しては
ILC2のサイトカイン産生が強力なので
暴走しないようなシステムが必要で
具体的には
*T NK NKT由来の
IFNα IL-27によるIL-5 IL-13の産生抑制
*IFN-γによる増殖抑制
*制御性T細胞由来のIL-10による
Th2型炎症誘導の抑制
といった機序により
ILC2の抑制がなされています
ステロイド抵抗性については
ILC2は
もともとステロイドに感受性で
ステロイドによりアポトーシスを起こしますが
IL-33と同時に
IL-2 IL-7 TSLPのいずれかが存在すると
ステロイド抵抗性になるという特徴があります
アレルギー疾患の治療には
ステロイドが使われることも多いので
ILC2がステロイド抵抗性になることは
治療上の問題になる可能性が示唆されています
このように
*自然免疫
*自然リンパ球ILC2
のアレルギーへの関与は
現在とても注目されている分野で
病態解明や治療につながる新たな研究成果が
期待されています
高橋医院