今の文楽はピッチャーが弱い?
近松の文楽 心中天網島を 充分に楽しむことができました この公演の舞台評が日経新聞にでていて 中堅クラスの太夫の活躍が素晴らしい という内容でしたが 朝日新聞の舞台評にも 同様のことが書かれていて 両方の趣旨の一致に びっくりしました なんでも 最近の文楽の世界では 特に 語りの太夫の部や 三味線の部で これまで牽引してきた大御所が 相次いで引退されたり亡くなったりで 世代交代がなかなか大変なのだそうです 太夫の部では この5年間で メンバーが23人から19人に減ってしまい 三味線の部もひとり減って 20人になってしまったそうです 40人近いメンバーがいる人形の部とは 大違いです そのため 文楽の人材育成のため2年毎に行われている 日本芸術文化振興会が募集する研修生は 昨年から人形の部はとらず 太夫の部と三味線の部に限られているとか 今回 舞台評で高い評価を受けた 中堅クラスの太夫というのは 50代のふたりで 日経さんが伝えるところによると 太夫の部のメンバーの年齢構成は 中堅の上の60~70代が8人 下の40代が4人 20~30代が5人 という世界ですから 太夫に関しては 40~60代の「中堅」クラスの成長だけでなく 若手の育成も急務かもしれません 以前にも書きましたが 書き手は 文楽のメインは太夫 太夫を育てるのが三味線で 人形遣いは 太夫 三味線があってこそ と思っています 実際にナマで文楽をご覧になると 太夫の存在がいかに大きいか そして太夫と三味線の微妙な駆け引きの妙味が お解りになることでしょう 「人形浄瑠璃」ですから ついつい人形や人形遣いにばかり 目がいきがちですが 文楽における太夫や三味線の存在は 大きいと思います 2009年に 演目の最後の見せ場を語る役目の 太夫の最高位である「切場語り」に ただ一人昇格され 2019年には人間国宝になられた 豊竹咲太夫は記者会見で 現在の文楽は 内野手 外野手は充実しているが 投手の力が弱い と語られたそうで 内野手とは 三味線 外野手は 人形遣い 投手は 太夫 だそうで なるほどね~! 豊竹咲太夫は 今回の公演でも快調に語っておられましたが 太夫の極意は「素直なこと」と この年になって悟られたそうです ひねくりまわして語るのでなく 床本に書いてある通りに読めばいい なるほど だから豊竹咲太夫の語りは とうとうと響くように聞こえてくるのでしょうか さて最後に内野手の話もしないと 片手落ちですね(笑) ちょうど公演プログラムの「技芸人にきく」と 8月の日経新聞の「こころの玉手箱」で 三味線の部の頭領の 人間国宝 鶴沢清治さんが 語っておられます 天網島の三味線は 世話物きっての難曲だそうで 色気がありつつ どっしりした といった深みのある音が求められ よい音を響かせるには その前に澱んだ音をしっかり出す といった仕掛けも さりげなく施さないといけないそうです なるほど そうなのですね 奥が深い! 治兵衛の微妙に揺れる気持ちを 音で表すことも必要で そのためには 登場人物が何を思っているか推測して その気持ちで弾かないといけないそうです 三味線は単なる伴奏ではなく 登場人物の心情 情景を描くものなので 気持ちをこめて弾き 間合いを大切にしないといけない また 近松の世話物は 時代物と異なり 義太夫の定型の節にはまりにくいものが多く もともと三味線は「辛抱役」なので 神経的に疲れるとか 太夫と三味線の関係については 太夫の表現することを後押しし 情を語らせてこそ 三味線弾きの値打ちが決まってくるが 互いがぶつからないと 生きた芸 良いものにならないので 挑みあって 喧嘩しあって ギリギリのところまで追い詰め合うのが 理想と言える また 語りと三味線の音がかぶると野暮ったいので 撥は太夫の裏へ 裏へ入りこむように 運ばないといけない 撥は太夫の裏に入りこむ のですか うーん 再度 奥が深そうです! 太夫と三味線の駆け引きは面白そうだけれど もっと勉強しないと まだ面白さが充分にわかっていません 人形抜きの 太夫と三味線だけの 文楽素浄瑠璃の公演があるようなので いつか行ってみようかな? それから 次は曽根崎心中を観たいけれど 一度 時代物を観るのもいいかもしれませんね 語りや三味線のノリが 世話物とはかなり違うのか 興味があります! 5月に義経千本桜をやるようですが またチケットを獲るのが大変かな?(苦笑)
高橋医院