前回 ご紹介した情報
全くのフェイクニュース
というわけでもないのですよ

実は「BCGは免疫を高める」という現象は
ずいぶん昔から検討されていて

書き手が大学院で
腫瘍免疫の研究をしていた30年ほど前にも

「BCGは自然免疫を活性化して
 がん免疫療法として有用だ」

多くの研究者が報告していました

BCGががん免疫療法に有用なことを説明するスライド

がん免疫療法の有力な方法のひとつにBCGが含まれることを示すスライド


わっ 懐かしい!(苦笑)

実際にBCGは
今でも膀胱がんの治療に用いられています


一方 2018年に

「BCGがウイルス感染を制御する」

という論文が発表されました

BCGがウイルス感染を制御するという趣旨の論文のタイトル

この論文では

*BCGは免疫細胞の単球・monocyteの能力を
 BCGがウイルス感染を制御するにより高める

 (エピジェネテイクス制御については
  以前に解説しましたのでご参照ください)

BCGによるエピジェネテイクス制御を介した単球活性化を説明する図

*BCGにより実験的なウイルス感染が排除できる

BCGによるIL-1増強を介した実験的ウイルス感染排除を説明する図

*この効果にはIL-1βの増加が関与している

ことが明らかにされています

こうしたコンテクストから
前述した宮坂先生は

BCGを接種された体内では
自然免疫が活性化され
それが獲得免疫の活性化につながり
ウイルス感染を排除するのではないか

という機序を想定されています

宮坂先生の仮説図

つまり
BCGはCOVID-19の感染や重症化を防ぐのでは?
というアイデアは

まんざら絵空事ではなくて
免疫学的にも可能性があるのです

ですから 
世界各地のさまざまな研究機関で
BCGとCOVID-19に関する研究や治験が
スタートしています

BCGとCOVID-19に関する治験のポスター


こうした状況下で
COVID-19に揺れる日本でも
にわかにBCGへの関心が高まり
医療機関へのBCG接種の問い合わせが
急増しています

BCGへの関心の高さを示す図


しかし 気持ちはわかりますが

BCGがCOVID-19に有効というのは
現在のところ あくまで仮説に過ぎず
科学的な裏付けは全くありません

いわば 噂話の域をでていない


ですから

COVID-19予防のためのBCG接種は
推奨されていません


日本ワクチン学会
世間の過剰にヒートアップする反応や
BCG接種を求める声の多さを鑑みて
4月3日に学会としての公式見解を出しました

日本ワクチン学会の見解

*COVID-19へのBCGワクチンの有用性は
 科学的に確認されたものでなく
 現時点では推奨されない

*BCGワクチンの目的は あくまで結核予防で
 COVID-19の発症 重症化予防ではない

*そうした誤った目的でのBCGワクチン使用は
 本来の目的である乳児への定期接種のための
 ワクチンの安定供給を妨げる恐れがある

という見解です


これに呼応するように
BCGワクチン製造会社も4月6日に
医療関係者へのお願いを出しました

BCGワクチン製造会社の見解

*COVID-19感染予防目的の使用は 
 BCGワクチンの適応外です

*BCGワクチンは出生数をもとに
 計画的に生産しており
 製造には8か月以上要するので
 COVID-19感染予防などで
 急激な需要増が起こると対応できず
 乳児への定期接種が
 確実に実施できなくなる可能性がある

ですから
結核予防以外の目的で
BCGワクチンの使用をご検討中なら
ご再考いただければ幸甚に存じます


要するに

ネットで情報を得て
COVID-19予防目的でBCG接種を希望する人に
科学的根拠のない不適切な使い方をして
貴重なワクチンを無駄遣いしないでください

ということです

書き手も 電話の問い合わせで
BCG接種を希望される方には
こうした事情をきちんとご説明して
お力になれないことを伝えるようにしています


こういうご時世ですから
BCG接種を希望される方の気持ちは
よくわかりますし

上述したように
全くのフェイクニュースでもなく
むしろ学問的には
期待がもてる仮説かもしれない

でも 今はまだ適切な方法ではない

将来に期待しましょう!

将来に期待する人の姿


それにしても 世間の人々は
ホントによく情報を調べておられます

ネット社会は恐ろしいです

こちらも専門家として
問い合わせに対して
納得いただけるお答えができるよう
しっかりと勉強しないといけません

色々な意味で 大変な世の中です(苦笑)
高橋医院