宮坂先生悪玉抗体について解説されたことは
既に紹介しましたが

宮坂先生は
最近 日経や朝日にもインタビューされて
色々と面白いことを教えてくださっています

語る宮坂先生

大手メデイアで最初に宮坂先生に食いついた
日経の慧眼はさすがですし

日経の記事

その後の斯界の流れを見極めて
宮坂先生にインタビューした朝日も
ある意味でさすがです

朝日の記事

で 宮坂先生が紹介された興味深いコンセプトが
訓練免疫 Trained immunity です


<自然免疫と獲得免疫>

以前にご紹介したように
免疫反応は 自然免疫 獲得免疫 の
2段階の反応系から構成されています

自然免疫と獲得免疫の解説図


@自然免疫

自然免疫の働きは
人が初めてウイルスに感染したとき
そのウイルスを排除しようとするもので

マクロファージ 好中球 補体などが働きます


@自然免疫から獲得免疫へ

自然免疫が活性化されると
ウイルスに関する情報が伝わり
獲得免疫が活性化されます


@獲得免疫

獲得免疫は
そのウイルスが再び侵入してきたときに
即座にウイルスを排除して再感染を防ぎます

獲得免疫では
抗原特異的なTリンパ球 Bリンパ球が働きます

この抗原特異性が 獲得免疫の大きな特徴です

Tリンパ球は
キラーTリンパ球として自らウイルスを攻撃し
ヘルパーTリンパ球は
Bリンパ球に働きかけて抗体を産生させます





自然免疫と獲得免疫について説明する図

@免疫記憶

自然免疫と獲得免疫の差異を語るときに
重要なコンセプトとなるのが「免疫記憶」です

あるウイルスに対する免疫反応が
持続するかどうか 記憶されているかどうか
ということです

記憶されていれば
再び同じウイルスが侵入して来たときに
免疫反応で排除することができます

そして
自然免疫には免疫記憶がなく
免疫記憶を司るのは獲得免疫である
というのが 書き手が習った免疫学でした


免疫記憶について説明する図


だから ワクチンを接種するのは
ウイルスに対する特異的な抗体を体内で作らせるためで

抗体ができていれば
二度と同じウイルスには感染しないし
できていなければ 再び感染する恐れがある


これまでご紹介したように
新型コロナウイルスに対する抗体には
少しトリッキーなところがありそうで
大丈夫なのか?と心配されているのは
そういう理由だからです


<自然免疫の訓練免疫>

ところが

抗体ができなくてもウイルスの再感染は防御できる

というコンセプトが提唱され
それが「訓練免疫」と呼ばれる現象です

自然免疫が
一定期間 ウイルスを記憶していて
ウイルスが再び侵入してきたときに
獲得免疫の抗体やキラーTリンパ球が働かなくても
自然免疫だけでウイルスを排除できる

という考え方で
オランダのグループが数年前に提唱しました

訓練免疫について説明する図

権威ある基礎医学系の医学誌のCellの6月号には
この訓練免疫が新型コロナウイルスの
感染しやすさ 重篤化を制御しているという
興味深い総説が発表されています

Cellに発表された総説

この自然免疫の「訓練」には
免疫細胞に分化する骨髄幹細胞における
細胞内でのエネルギー産生系活性化
核内でのエピジェネテイック変化
関与すると考えられています


訓練免疫におけるエピジェネテイックの関与を示す図

また 一時期話題になったBCG
この自然免疫の訓練免疫を強化することにより
効果が発揮される可能性があると示唆されています

BCGによる免疫訓練強化を示す図


宮坂先生は
自然免疫やその訓練免疫が強ければ
抗体がなくても新型コロナウイルスを排除できる可能性がある
と指摘され
回復者の10%くらいはそういう人ではないかと
推測されています
(あくまで推測ですが)

自然免疫による新型コロナウイルス排除を示す図

そして
抗体にばかり過度に注目していると
新型コロナウイルスの病態を見誤るリスクがあると
警鐘を鳴らされています


警鐘を鳴らす宮坂先生

うーん 自然免疫の訓練
新しいコンセプトで面白いです!

これが感染防御のメインルートではないと思いますが
一部の人では
大きく貢献しているのかもしれません

訓練免疫の動態を
簡単に評価できるアッセイ系ができれば
どういう人が
自然免疫・訓練免疫が強いか明らかにできるし
強くするための方法も解明できるかもしれません

ワクチンの考え方も 
少し変わってくるかもしれません

“かもしれません”ばかりですが(苦笑)
とても興味深いと思いました
高橋医院