アメリカの大統領選挙は
まだ正式な結果が出ずに混迷が続いているようです

当院に定期的に通院されている
日本在住アメリカ人の患者さんが 昨日診療に来られ
「私は1ヵ月前に投票したが 今の混迷を見るとストレスが溜まる」
と ため息をつきながら言われていました

さすがに「どちらに投票されたのですか?」とは
聞きにくい雰囲気でした、、


2日前にはトランプがフロリダもテキサスも制し
書き手は重い気分になったことをブログに書きました
状況は変わりバイデンさんが逆転しそうな状況です

選挙速報を伝えるテレビ画面


でも テレビで放映されるトランプ本人や彼の支持者の
「ものに憑りつかれた」かのような言動を見ていると
重い気分は少しも変わることがありません

結果を批判するトランプさん

「ものに憑りつかれた」かのようなトランプの支持者たち


前回 北大の吉田先生がインタビューで語られた
トランプ人気の影に潜む ポピュリズムとアイデンティティの危機
についてご紹介しましたが

似たような内容の記事が
10月にやはり朝日新聞に掲載されていました

朝日新聞に掲載された記事

約4半世紀前に あの「歴史の終わり」を書かれた
アメリカのスター政治学者のおひとりの
フランシス・フクヤマさんへのインタビュー記事です

フランシス・フクヤマさん


フクヤマさんは トランプの4年間について

4年前の当選時は
大統領に就けば重責を肌身で感じ
研鑽を積むとの期待もありましたが
現実は正反対で
政策遂行能力から大統領としての立ち居振る舞いまで
すべてが劣化しました

と批判的に分析されます

記者会見で吠えるトランプさん

それでも多くの岩盤的なトランプ支持者がいる理由について

アメリカ政治の党派の対立軸が
経済政策でなくアイデンティティに変わり
自身の尊厳や価値観を認められたいという欲求の受け皿になるかどうかが
重視される時代になったことの影響が大きい

と分析されます

おや ここでまた
アイデンティティの問題が出てくるのですね

フクヤマさんが書かれたアイデンティティ政治に関する書籍


フクヤマ先生は 次のように分析されます

多くの白人労働者層や低学歴の有権者は
トランプを自分たちの価値観や尊厳を大事にしてくれる英雄だと
見なすからこそ 忠誠を誓うのです

トランプの政治的な本能が
自分たちのアイデンティティの承認を求める彼らを
見事に結集させたと言えます

白人労働者

そして

自分とアイデンティティが異なる層が社会で台頭すれば
それは脅威と意識されがちです

そうした状況で
恐れや憎しみといった感情がもたらす効果は絶大で
利害に照らした合理的な判断より
同じチームの一員かどうかが重視されることになります

だから 対立する敵を作り その相手を激しく罵るという
トランプ流のやり方が支持されてしまう

敵を激しく罵るトランプ支持者たち


どうしてアイデンティティに基づく社会の分断が生まれたかというと
一部のエリート層が推進したグローバル経済により
製造業が衰退し白人労働者層の雇用が失われ
そうした エリート層の意思決定に
振り回されて苦しんだ白人庶民の憤りを
トランプのポピュリズムがうまくつけ込んで利用したから


一方で 忘れてならないのは
右派だけでなく左派も
アイデンティティ政治を押し進めたということ

人種 信仰 性的指向などに基づく差別を防ぐため
中立的表現を用いるポリティカル・コレクトネス(政治的正しさ)が重視され
それを徹底する動きが大学 メディア 映画界などで広がり
白人庶民層はついて行けないと感じることが多くなり
保守派勢力がエリート叩きする原因にもなった

なるほど この指摘はさすがです

ポリティカル・コレクトネスについては
以前にこのブログでも紹介しましたが
過度のポリティカル・コレクトネスは
確かに強烈なアイデンティティの押しつけになりかねません

ポリティカル・コレクトネスはイントレランスだと主張するポスター


フクヤマさんはインタビューの最後に
アメリカ社会は分断を克服できるだろうかと問われ
こう答えられます

分断しているアメリカ社会

大統領が交代すればすぐに分断が解消されるわけではなく
克服には長い時間がかかり 優れたリーダーシップも必要です
バイデン氏でうまくいく確証はありません

長い目で見れば 社会は常に変化し続けるので
それにともないポピュリズムの背景にある白人労働者の不満も変化し
今の目に見える対立構造もやがて変わっていく可能性が大きい

私が重要視したいのは
民主主義が持つ
チェック・アンド・バランスにより過ちを自己修正する機能で
アメリカは大統領選挙を通して
民主主義のそうした強靭さを世界に示して欲しいと願っています

民主主義のチェック・アンド・バランス機構を讃える人たち


フクヤマさんは いつも最後には理想を語られますが
意地悪な見方をすると
彼のこういうところがエマニュエル・トッドやマルクス・ガブリエルに
ちょっと揶揄的に評価される所以でしょうか?

あ フクヤマ先生ファンの皆さま ゴメンナサイ!(苦笑)


つまらない冗談はさておき 吉田先生もフクヤマ先生も
今のアメリカの現状と
アイデンティティとポピュリズムを結びつけて語られていたことが
とても印象的で勉強になりました

10月にこのインタビューに答えられていたフクヤマ先生は
トランプが「この選挙は不正だ!」と吠え
(さすがのトランプも 記者会見では疲労感が滲み出ていました)

記者会見では疲労感を示すトランプ

多くのトランプ信者たちがそれに従い
「stop the count」と暴動を起こしかねず
一方でトランプを批判する人々が
「count every vote」とうったえるデモが続く

「stop the count」「count every vote」と互いに主張しあう人々

まるで一触即発のような選挙後のアメリカ社会の現況を
どのような思いで見ておられるのでしょう?
高橋医院