生活習慣病と時計遺伝子異常
中央区・内科・高橋医院の 健康のための栄養学に関する情報 時計遺伝子の代謝の日内変動への関与 について説明しましたが では さまざまな生活習慣病において 時計遺伝子の異常が どのように病態形成に関与しているのでしょう? <肥満> 肥満者では *内臓脂肪でのBMAL1の機能が低下 *単核球のBmal1の発現量が増加 していることが明らかにされています また マウス肥満モデルでは 肝や脂肪組織の 時計遺伝子のmRNA発現リズムの減弱がみられ この異常は 肥満や代謝異常の発現前から認められます つまり 結果ではなく原因である可能性がある この原因として エピジェネテイクスの関与が推察されていて 脂肪組織では 時計遺伝子のプロモーター領域の ヒストンアセチル化が減少していることが 明らかにされています いずれにせよ BMAL1の日内変動パターンが乱れると インスリン分泌 グルコース放出作用が弱まり 血糖値の変動幅が正常時より大きくなって 糖尿病が悪化しますから 肥満者が糖尿病になりやすい原因には こうした時計遺伝子の異常も 関与している可能性があります <脂質異常症> @脂質代謝関連酵素の発現は夜に多い 既にご説明したように 脂肪を合成する多くの酵素の遺伝子発現は 夜に多いのが特徴です 飢餓を経験してきたご先祖さまは 得られた栄養素を 夜間のエネルギー消費が少ない間に 脂肪に蓄えておくという 合理的な代謝システムを身につけ 現代人も そのシステムを引き継いでいるわけです ですから 夜に食べると太る 何度も繰り返しになりますが ご先祖さまから受け継いだ体質には抗えません で 前回解説したように 時計遺伝子の変異は 脂質代謝の異常をもたらします コレステロール代謝は コレステロールの *合成 (律速酵素:HMGCoA還元酵素)と *分解 (律速酵素:コレステロール7α水酸化酵素CYP7A1) のバランスで決まり 両律速酵素とも その発現に日内リズムがあり ラットでもヒトでも 夜間に高く発現します @摂食リズムの異常が 脂質代謝関連酵素発現の日内リズムを狂わせる 摂食のリズムが崩壊すると 肝臓の細胞の日内リズムが崩されるので コレステロール代謝異常が誘導され 血中コレステロール濃度が増加します たとえば 摂食リズムを崩壊させたラットでは 肝臓から血中への胆汁酸の排泄量が 有意に減少しており 胆汁酸の体外への排泄が減少するので 胆汁酸の原料のコレステロールが 体内に蓄積します さらに コレステロール異化代謝の 律速段階(胆汁酸合成の律速段階)酵素である CYP7A1の発現のピークが 昼に前進することにより 摂食のタイミングと酵素発現のタイミングがずれ タイムリーで効率的な代謝が できなくなっています CYP7A1遺伝子の転写を制御するのは 時計遺伝子DBPで 摂食リズムが崩壊したラットでは この時計遺伝子の異常が見られました このように 高コレステロール血症の出現には *摂食リズムの異常 *時計遺伝子の働きの異常 の双方が関与すると考えられます @食事内容により 肝臓の体内時計に乱れが生じる 脂質代謝は 主に肝臓で行われますが 肝臓の細胞の体内時計は さまざまな栄養素により調節されます 高脂肪食摂取は 日内リズムの周期を長くし 脂肪酸分解を促進する薬剤は それを抑えます 特に糖質 タンパク質が重要で 一部のビタミンも関与しています ですから 食事内容により 肝細胞の体内時計に乱れが生じ それにより 脂質を代謝する酵素群の出現パターンが乱れ 結果として 脂質異常症が生じるリスクが想定されます <糖尿病> 2型糖尿病の患者さんでは 肝臓や脂肪組織において インスリンの分泌に関わる BMAL1などの時計遺伝子群の 発現量の低下や規則的なリズムの消失が 認められます 興味深いことに そうした現象は 症状や病態が出現する以前から認められ 糖尿病になったから 起こってきた現象ではなく 発症や進展に関わっている原因である可能性が あります このように 肥満 糖尿病 脂質異常症などの 生活習慣病の原因に 時計遺伝子の異常が誘導する 代謝関連酵素の日内変動の異常 が深く関与している可能性が 明らかになってきました 食事するタイミング いつ 何を食べるか が 生活習慣病の発症進展の予防に重要なわけを ご理解いただけるでしょうか?
高橋医院