肥満の薬物療法
肥満や糖尿病の患者さんから よく聞かれることは 「肥満を治す飲み薬はありませんか?」 ということです こちらとしても 減量の大変さはよくわかっているので 「はい 良い薬がありますよ!」 と答えてあげたいのですが なかなかそんなにうまい話はない のが現状です それでも 肥満を改善する薬剤の研究開発は行われています <薬物療法の適応者> 薬物療法の適応となる患者さんは *食事・運動・行動療法を3~6か月行っても 体重減少が見られない *肥満による健康障害を有する 方です <薬物の種類> @中枢性食欲抑制薬 現在 使用されている主な薬は 脳内の食欲に関わる部位に働きかけて 食欲を抑制しようとする薬です *脳内アミン作動薬 *セロトニン受容体アゴニスト ロルカセリン *カンナビノイド阻害薬 *神経ペプチド作用修飾薬 といった 脳内の神経伝達物質に働きかける薬が 試みられています マジンドール (商品名:サノレックス) 日本でも保険適応されているのが マジンドールという薬です この薬は 神経末端のモノアミン再吸収抑制作用により 摂食中枢の抑制 満腹中枢の刺激を行い 食欲を抑制する働きを有しています マンジトールを服用した患者さんの 30~50%で食欲が抑制できたと 報告されています しかし BMI>35の 高度肥満の患者さんだけが治療対象で 最長3か月までしか投与できません したがって適応は限られていて 長期の効果を得るのは なかなか難しいのが現状です また その減量効果は3%程度なので 肥満症の薬としては効果がないと 行政は認識しているようです しかし何度も述べてきたように 3%の体重減少により 肥満にともなう血液データの異常は改善できます そうした新たな認識のもと マンジトールがより使いやすくなることを 期待したいものです 一方 日本では未だ保険適応されていませんが 外国では 下記の薬剤が肥満治療薬として使用されています @吸収阻害薬 脂質の消化吸収を行う リパーゼという酵素の働きを阻害する薬で 脂質吸収を抑制することで 体重を減少させます *セチリスタット *オルリスタット といった薬が 実際に用いられています @代謝促進薬 体内でのエネルギー消費を高めて 脂肪の減少を図る薬です @糖尿病薬 糖尿病治療に用いられる薬剤の中には 減量効果を期待できるものが 何種類かあります *メトホルミン 中枢性の摂食抑制 腸管からの糖吸収抑制効果により 体重減少効果が期待できます 実際に 肥満の糖尿病患者さんにメトホルミンを投与すると 体重が減少することが度々観察されます *GLP-1受容体作動薬 リラグルチド 何度か紹介した 新たな糖尿病治療薬のGLP-1受容体作動薬ですが その中枢性食欲抑制 胃排出時間の遅延作用により 体重減少効果が期待できます アメリカでは 糖尿病治療に用いられるより高用量の3mgで 肥満治療効果があると報告され 実際に肥満治療薬として用いられています GLP-1受容体作動薬の注射薬を使用している 糖尿病患者さんは 食欲が減って体重が減少したと 言われる方が少なくないので 今後の展開に期待したいと思います *SGLT2阻害薬 尿細管での糖の再吸収を抑制する 新たな糖尿病治療薬ですが 脂肪肝にも有効 高血圧 中性脂肪 高尿酸血症も改善 心庇護効果により心血管イベントを抑制する などの糖尿病抑制以外の作用が認められ 減量効果が見られることも少なくありません 但し 糖尿病がない肥満だけの人には 減量効果が弱いと報告されています *胆汁酸吸着レジン 陰イオン交換樹脂 コレスチミド 腸管内で胆汁酸を吸着し糞便中に排出させ 胆汁酸の腸肝循環量を減らして 血中コレステロールを低下させる薬ですが 体重減少 ウエスト長減少 糖代謝改善 がみられ 胆汁酸組成変化による 代謝促進 GLP-1増加 腸内環境の変化などにより そうした効果が得られると推測されています 脂質異常症をともなう肥満の患者さんに 良い適応となる可能性があります @漢方薬 何種類かの漢方薬は 減量効果があると報告されています *防風通聖散 褐色脂肪細胞の熱産生 白色脂肪細胞の脂質分解 が促進され そうした現象により 減量が期待されています *抑肝散 不安感 イライラ感を抑えて 食欲を抑制するとされ ストレス食いなどに効果的ではないかと 期待されています このように 現状ではすぐに効果が期待できる抗肥満薬は 特に中枢性食欲抑制薬では少ないのですが 糖尿病治療薬などに 期待できる薬剤がありますので 今後の展開に期待したいものです
高橋医院