食欲の原動力
中央区・内科・高橋医院の 食事と健康に関する情報 食欲が起こるところは 脳ですが 脳では どのようにして 食欲が生じるのでしょう? <脳は体内の栄養・エネルギー状態を感知して 食欲を感じる> 前回ご説明したように 食欲は基本的に 生命活動の維持のために起こります 生命活動の維持に関わるのは 体内のエネルギー状態ですから 脳は 体内の栄養状態 エネルギー状態の情報を得て それが足りなければ 補うために食事をさせます だから 食欲が生じてくる 一方 エネルギーが充分なら 食欲は起こりません では 何が脳に 体内の栄養・エネルギー状態を 伝えているのでしょう? それこそが 食欲のドライビングフォースになります <脳に体内の栄養状態を伝えるもの> @糖質 そのひとつは 血液中の糖・グルコースの値です これまでに説明してきたように グルコースは 食物中の炭水化物から分解・吸収され インスリンの働きにより 細胞内に取り込まれて ミトコンドリアで エネルギーに変換されます また 脳は エネルギー源として 糖を優先的に要求します だから 血液中のグルコースが足りないと 体内のさまざまな細胞が働けないし 脳も働けなくなってしまう ということで 血液中のグルコースが低下して それを脳が察知すると 危険な状態を克服するために 脳は食欲を起こしてモノを食べさせる *摂食中枢 脳の内部にある視床下部というところに 血液中のグルコース濃度が 低いと活性化され 高いと抑制される部位があり (グルコース感受性ニューロン) ここが活性化されると 食欲が起こります この部位が 食欲を促進させる摂食中枢です *満腹中枢 その傍には 逆にグルコース濃度が高いと 活性化される部位があり (グルコース受容性ニューロン) ここが活性化されると 食欲が低下します この部位が 食欲を抑制する満腹中枢です このように 視床下部には 血液中のグルコース濃度を感知して それにより食欲を制御する部位があり この反応は 時間単位の短いタイムスケールの変化で 起こります @脂質 体内の栄養・エネルギー状態を脳に伝えるのは 糖だけではありません 糖と並ぶ代表的な栄養素である脂質も 体内にその貯蓄が足りなくなってくると 脳に情報を伝えます ただ 糖と違って 脂質が足りなくなっても すぐに生命維持に関わる切羽詰まった 緊急事態にはならないので 日単位の長いタイムスケールでの変化を 伝えます そして 糖質ではグルコースが ダイレクトに情報を伝えるのと異なり 体内の脂質の状態は 代表的な脂質である脂肪酸も伝えますが 脂肪細胞が産生するレプチンが 主に伝えるのです ここが食欲のドライビングフォースとしての 糖質と脂質の大きな差異です レプチンが脳にどのようにして情報を伝えるか そしてレプチンと食欲との関連は 稿を改めて詳しく説明します ちなみに脂肪酸は 血糖が低い空腹の状態では インスリンがないので 脂肪組織から血中に出て遊離脂肪酸となり 血中濃度が高くなります そして 血中の遊離脂肪酸濃度が高いと 視床下部の 摂食中枢を活性化し 満腹中枢を抑制し 食欲を亢進させます つまり グルコースとは 正反対の影響を及ぼすのです 体にとっては 血中の脂肪酸濃度が高い状態は 脂肪組織でのエネルギー備蓄が 減っていることを意味するので 食欲を亢進させて 食べてエネルギー備蓄を回復させたい という合目的的な現象でしょうが なんだか面白いです @その他の原動力 脳で起こる食欲に影響を及ぼすのは 体内の栄養・エネルギー状態だけでは ありません 胃の膨らみ具合などの 消化管からの情報は 迷走神経を介して脳に伝えられ 食欲に影響しますし 消化管が産生する消化管ホルモン エストロゲン グルココルチコイドなどの ホルモンも 脳に情報を伝えて 食欲に影響します 一方 食物を見たり 臭いを嗅いだり 味を感じたり そうした視覚 嗅覚 味覚などの感覚情報や 食べものに関する記憶 情動などの情報も 大脳皮質や辺縁系など脳の他の部位から 視床下部に伝わり 食欲に影響を及ぼします 1日の24時間の変化を感じる概日リズムの情報 体温の状態なども 同じ視床下部内から伝わり 食欲に関わります そして ヒト特有の 食べることへの快感・満足感も 食欲や摂食行動に大きく影響を及ぼすのです このように 基本となる原動力は 体内の栄養・エネルギー状態ですが それ以外にも さまざまな情報が影響を及ぼして 食欲は形成されるのです お腹が減った 食べたい というプリミティブな衝動も 実はなかなか複雑にできているのですよ(笑)
高橋医院