中央区・内科・高橋医院の
健康のための栄養学に関する情報


短鎖脂肪酸は大腸内で働くだけでなく

腸管から吸収されて全身にいきわたり
さまざまな作用を発揮することが
解ってきました


<代謝反応の改善>

@脂肪細胞からのレプチン分泌促進

@腸管迷走神経の受容体 
 視床下部経路により食欲制御

*視床下部で抑制作用を有する
 GABAを発現させることによる

といった作用を介して 
代謝に影響を及ぼします

具体的には 
下記に示すさまざまな機序により
代謝状態を向上させるとともに 
血糖の調節をコントロールしています

@ATP産生などにより 
 腸管での糖新生を増加

@肝での脂肪合成 糖産生の減少

*受容体GPR43活性化による 
 インスリンシグナル伝達抑制による

@骨格筋のインスリン感受性亢進

GPR43による代謝反応の改善をまとめた図


満腹感の増加による体重減少

GPR43による代謝反応の改善をまとめた図2

交感神経を活性化して 
 エネルギー消費を高めて 
 エネルギー恒常性の維持に関わる

*エネルギー過負荷状態で過剰に産生される
 短鎖脂肪酸によるフィードバック

*受容体GPR41依存性

による

短鎖脂肪酸による体重減少効果をまとめた図

<炎症反応の抑制>

高脂肪食は 腸管の透過性を亢進させて

炎症を惹起する
リポ多糖類(LPS)やエンドトキシンの
腸管から血中への移動(トランスロケーション)を増加させて
全身での慢性炎症を誘導します


@腸管バリア機能の強化

酪酸は 
腸管上皮細胞のエネルギー源となり
腸管壁のバリア機能を強化し

LPSやエンドトキシンの
腸管からの吸収を減少させ
全身の炎症を改善します


炎症反応の抑制効果をまとめた図


@炎症に関連する分子の発現制御

短鎖脂肪酸
免疫細胞の遊走・浸潤を促進する分子である
接着分子 ケモカイン サイトカインの発現を制御することで
炎症反応を抑制します

接着分子 ケモカイン サイトカインの発現制御についてまとめた図


@制御性T細胞(Treg)の分化 機能の制御

免疫反応を制御する制御性T細胞(Treg)の分化 機能にも関与し

酪酸は 
 腸管でのTreg分化を促進 IL-10産生を介して抗炎症作用を示し

酢酸は 
 Tregの機能を改善し 自己免疫応答を抑制する

ことにより 過剰な病的免疫反応を制御します

制御性T細胞の分化 機能への影響をまとめた図

このように 短鎖脂肪酸は

*糖尿病を惹起するような代謝状態 や

*さまざまな病気の基盤となる慢性炎症状態 を

改善する方向に働くと考えられています


一方

がん細胞の増殖・遊走を抑制し 
アポトーシスを誘導することより
抗がん作用も発揮することが明らかにされています


<エピジェネテイクス制御>

遺伝子の発現に関わるエピジェネテイクスにも関わっています

*酢酸は 
 ヒストンアセチルトランスフェラーゼを増加する

*酪酸は 
 ヒストン脱アセチル化酵素を抑制する

ことにより エピジェネテイクスを制御しています

エピジェネテイクス制御についてまとめた図


<G蛋白共役受容体の(GPR)のリガンドとして作用する>

G蛋白共役受容体全身のさまざまな組織に発現し 
さまざまな機能発現に関わる受容体です

G蛋白共役受容体の説明図

短鎖脂肪酸が
どのようにして 
これまでに説明した種々の機能を発揮するか不明でしたが

近年
短鎖脂肪酸は 
この受容体を働かせるリガンドとして機能して
さまざまな機能を発揮すること
が明らかにされてきました

短鎖脂肪酸が作用するG蛋白共役受容体は 
下記の種類があります

@GPR41(FFAR3)

*プロピオン酸 酪酸がリガンド

*腸分泌細胞に発現し
 PPY分泌増加 食欲抑制作用を示します

*交感神経にも発現し
 交感神経活性化による代謝亢進 
 インスリン感受性亢進 食欲抑制
 などの作用を示します

*膵臓にも発現し インスリン分泌を促進します

GPR41の作用をまとめた図

@GPR43(FFAR2)

*酢酸 プロピオン酸がリガンド

*脂肪細胞に発現し
 インスリンシグナルを抑制し 脂肪沈着を抑え
 レプチンの分泌を促進します

*腸分泌細胞にも発現し
 GLP-1 インスリンの分泌を促進します

GPR43の作用をまとめた図

@GPR109A

*プロピオン酸 酪酸がリガンド

*免疫細胞に発現し 炎症反応を制御します

*脂肪細胞にも発現し 脂肪分解を抑制します

*大腸での炎症も抑制します

GPR109の作用をまとめた図

@Olfr78

*最近新たに同定された受容体で
 血管内皮細胞に発現し 血圧を上昇させます

Olfr78の作用をまとめた図


このように

短鎖脂肪酸は 
代謝調節作用 抗炎症作用を有することから

短鎖脂肪酸のもとになる
水溶性食物繊維をたくさん摂取すれば
糖尿病や生活習慣病が改善する可能性があります

また

短鎖脂肪酸が有する
代謝調節作用 抗炎症作用が
G蛋白共役受容体への結合を介して発揮されることが
明らかにされ
これらの受容体を活性化する新たな治療法の開発が
試みられています

短鎖脂肪酸 要注目です!
高橋医院