昨年末にCOPDについて解説したので
同じ呼吸器疾患で 患者さんの数が多い
気管支喘息について説明します

<喘息の特徴>

喘息は

*気道のアレルギー性慢性炎症

*気道の過敏性

が基盤に存在し

*呼吸器症状を出現させる
 気管支平滑筋の収縮による気道狭窄が
 可逆的に繰り返し出現する

といった特徴がある疾患です

喘息の3つの特徴をまとめた図


その特徴は

@気道狭窄症状が変動性を示す

発作時には気道が閉塞して
喘鳴 咳 痰 呼吸困難が生じ
COPDと同じ気流制限の状態になります

しかしCOPDと異なり
発作がないときには 気道は閉塞していません

つまり 気道閉塞の程度は

時々刻々変化し
(=気道変動性
治療により改善しますし
自然に軽快することもあります 
(=気道可逆性気道狭窄症状の変動性を示す図

これが喘息の症状の特徴です

@ベースに気道過敏性がある

喘息で見られる気道閉塞は
気道過敏性をベースにして起こり
さまざまな内的・外的因子が
閉塞の誘導因子になります


@慢性炎症が病態の基盤にある 

喘息の患者さんの気管支には
好酸球 好中球 リンパ球 マスト細胞などの
炎症細胞の浸潤がみられ

それらによる慢性炎症には
気道上皮細胞 線維芽細胞 気道平滑筋細胞などの
気道構成細胞や
サイトカインなどのさまざまな液性因子
が関与します

気道の慢性炎症を示す図



<喘息のさまざまな病型>

喘息には 多様な病型が混在しています

@アトピー型 非アトピー型

喘息は
アトピー型 非アトピー型に大別されます

アトピー型 非アトピー型の喘息の割合を示すグラフ

アトピー型では
アレルゲン特異的IgE抗体が検出されます

IgE抗体については
アレルギーの解説で詳しく説明しましたので
参照してください

アトピー型でIgE抗体が認められることを示した表

また
小児はアトピー型が
大人は非アトピー型が
多く認められます

アトピー型 非アトピー型の特徴を比較した表

両者の間で
気道の炎症像 過敏性の程度に差はありませんが
誘因や増悪因子は異なります

アトピー型 非アトピー型の増悪因子をまとめた図
アトピー型 非アトピー型の差異を強調する図

女性に特徴的なタイプもあります

以前にアレルギーの解説で紹介したように
中高年の女性の喘息には 肥満が大きく関与します


<疫学>

@呼吸器疾患でいちばん患者さんが多い病気です

成人の有症率は10.4%で 有病率は4.2%です

喘息の年代別の有症率 有病率を示すグラフ

そのうち医療機関を受診 治療しているのは
約10%の100万人前後と言われています

@性別

14歳までは男性優位 15歳以上は女性優位で

性別 年齢による喘息の患者数を示すグラフ

女性では 
肥満合併が多く 
重症化しやすいのが特徴です

女性での肥満による重症化を示すグラフ

@年齢

2~3歳がピークですが 小児では減少傾向にあり

一方 成人は増加傾向で
最近は中高年発症が多く見られます

中高年での発症増加を示すグラフ

@発作による救急外来受診 入院

ここ20年で大幅に減少しており
喘息死も1990年代から順調に低下しています

死亡例の9割は 65歳以上の高齢者です

気道の慢性炎症が病態の本態であることがわかり
吸入ステロイド薬(ICS)を中心とした
抗炎症療法が広まったことにより
予後の改善がみられています

ICS療法の広まりにより予後の改善が見られることを示すグラフ

<発症の危険因子>

@個体の要因

*遺伝的要因

家族歴があることなどから
遺伝的要因があることは事実ですが

網羅的遺伝子解析(GWAS)では
単一の遺伝因子の関与は少ないことが明らかにされ
環境因子を含む多数の因子の相互作用により
発症すると考えられています

*アトピー素因

アトピー型喘息の病因であるアレルゲン特異的IgE抗体を
産生しやすい体質で
家族集積性にみられます

アトピー素因について説明する図

血清総IgE値は
年齢 性別に関わらず喘息と強く関連します

*気道過敏性

その存在そのものが発症の危険因子で
複数の遺伝因子が関与すると推察されています

*性差

小児では男児が
成人では女性が
それぞれ優位に発症します

*肺の低発育

*肥満

以前にも紹介しましたが
肥満が病態形成に関わる非アトピー型の喘息も存在します

@環境の要因

*アレルゲン暴露

患者さんの多くは 吸入アレルゲンに感作されていて
アレルゲンへの暴露により
気道の慢性炎症が誘導されます

3歳までの感作が原因となるので
発症予防には アレルゲンの回避が大切です

*呼吸器感染症

乳幼児期の
ライノ RSウイルス感染 細菌感染などが 
原因になります

*喫煙

喫煙は 気道上皮細胞からのTSLP産生を誘導して
喘息の発症に関わります

妊娠中の喫煙は
子供の発症リスクを喫煙量依存的に増加させるので
両親 家族の禁煙が推奨されます

*大気汚染

PM10 PM2.5 デイーゼル排気微粒子などが
小児の非アレルギー性喘息に関与します

*鼻炎

アレルギー性鼻炎 副鼻腔炎は
小児でも成人でも
アトピー素因と独立した危険因子になります

*食物

人工乳は母乳よりリスクが高く
特に子供がアトピー素因がある場合は要注意です

環境要因 増悪因子をまとめた図表
<増悪の危険因子>

*過去の増悪の回数と重症度

*現在のコントロール状態の不良

*不適切な治療薬の使用 アドヒアランス不良

*喫煙

*大気汚染 ペットなどの環境アレルゲンへの暴露

*併存症の存在
 ・肥満
 ・鼻炎 副鼻腔炎
 ・食物アレルギー
 ・精神疾患 ストレス
 ・GERD

など

*妊娠では約20%で増悪します

これらが増悪の危険因子とされています
高橋医院