腸内細菌叢と病気との関わり
腸内細菌叢の乱れ 多様性の消失が さまざまな疾患の発症・進展に関わることが 次々に明らかにされており その機序も徐々に解明されつつあります <どのように疾患の発症・進展に関わるか?> @腸内細菌叢の乱れ・dysbiosisが病態に関わる さまざまな疾患で *腸内細菌の種類の減少 *少ないはずの細菌種の増加 優位な細菌種の減少 *善玉菌と悪玉菌のバランスの崩れ といった現象が観察されています @短鎖脂肪酸を生成する菌種の減少 この現象により *エネルギー吸収効率の変化 *脂肪蓄積の促進から肥満へ といった変化が生じます @多様性の消失 特定の菌の増加や減少が問題なのではなく 多様性の消失が いちばんの問題と考えられています 多様性が低いと *肥満が多く 減量しにくく リバウンドしやすい *血中炎症マーカーが低下しない *脂質が高い *糖尿病 心血管疾患のリスクが高い *アレルギー 自己免疫疾患の原因にもなる といったことが起こり 多様性が高いと *炎症マーカーが低い *酪酸が多い といった 生体に有利な現象が認められます <腸管の疾患への関与> 炎症性腸疾患(IBD) 過敏性腸症候群(IBS) 大腸がん などに関わり @炎症性腸疾患・IBD 患者さんの腸内細菌叢は 健康人と大きく異なり 健康人の腸内細菌叢(糞便)の 患者への移植による治療も試みられています @過敏性腸症候群・IBS 特徴的な変化として *酪酸産生菌の減少 *メタン産生菌の減少 *酢酸 プロピオン酸産生菌の増加 があり こうした腸内細菌叢の変化が IBSの病態形成に関わる腸脳相関に 影響を及ぼすと推察されます また ストレスによる腸内細菌叢の変化により 粘膜透過性の亢進 内臓知覚過敏が起こることも 報告されています <肥満 糖尿病への関与> 腸内細菌叢の変化が 宿主のエネルギー調節 栄養の摂取などに関与する というアイデアで 次回 詳しく紹介します <動脈硬化 心血管疾患への関与> 卵 チーズ 肉などに含まれる コリン カルニチンの腸内細菌関連代謝産物の TMAOが高いと 動脈硬化性心血管イベントの発症が増え 心不全の予後が悪いことが 明らかにされています したがって TMAOを産生する腸内細菌への介入などにより 動脈硬化が予防できる可能性が 示唆されています <アレルギーへの関与> アトピー性皮膚炎 喘息などの アレルギー疾患の発症に 生後早期の腸内細菌叢のdysbiosisが 関与することが明らかにされ 帝王切開で生まれた児は喘息が多い 2歳までに抗生物質を投与された児は喘息が多い ことも報告されています 腸内細菌叢のdysbiosisが 生体の免疫系の発育に影響を及ぼすためと 考えられています
@酪酸の影響 *酪酸などの短鎖脂肪酸が関与する可能性がある *酪酸は食物アレルギーの予後に影響する ことが報告され 酪酸産生菌を増やして *酪酸によるTreg誘導 *酢酸 プロピオン酸による上皮のバリア機能強化 *バリア機能強化によるアレルゲンの血中移行の抑制 を起こさせる治療効果が期待されています <精神疾患との関連> 腸内細菌叢が精神疾患に影響を及ぼすなんて 全く想像できませんでしたが その鍵は 脳腸相関にあります @脳腸相関 機能性胃腸障害の解説で紹介したように *中枢神経系が腸管の動きをコントロールし *腸管の情報が中枢神経系へ伝達され影響を及ぼす のが 脳腸相関です 脳腸相関では 腸管に多く存在し脳に情報を伝える 求心性神経を介した経路が働きますが 腸内細菌叢が関わる *腸内細菌由来の菌体成分が 免疫細胞を刺激して インターロイキンなどのサイトカイン産生を誘導し 神経系に影響する経路 *腸内細菌が産生する 短鎖脂肪酸などの生理活性物質が 神経系に直接的・間接的に影響する経路 などが関与すると考えられるようになり こうした機序により 腸内細菌叢と神経精神疾患との関わりが 説明され始めています @うつ病 うつ病と腸内細菌叢の関わりについては *腸内細菌叢のバランスが崩れ 悪玉菌が増えてくると 腸内で低レベルの慢性炎症が起きる *慢性炎症起きると IL-6などのサイトカインが上昇し 免疫系が活性化する *そうすると腸管内で トリプトファンからキヌレニンへの合成が促進され 興奮毒性により神経細胞が障害され うつ病などの精神疾患を起こす *トリプトファンが減少することで セロトニンが減少し 神経伝達に異常を来す といった機序が推定されています 腸管と脳は密接に関連していて 腸内細菌叢が 脳内で働く神経伝達物質の一部を産生するため 脳神経系の疾患 精神疾患の病態に 腸内細菌叢の乱れが関与すると 考えられるわけです 腸内細菌叢の乱れの是正により うつ病や自閉症が治療される時代に なってくるかもしれません 本当に ビックリです!
高橋医院